春が訪れ、山々に雪が残り始める3~4月。可憐な黄色や白色の花を咲かせるネコノメソウが、登山道や林床を彩ります。
数年前、東海地方に咲くキバナハナネコノメソウとトウノウネコノメを目当てに、意気揚々とカメラを携えて出かけた私。しかし、ネットの情報は断片的で、具体的な場所が分からず、半日ほど探し回っても見つけられずに帰路についた苦い思い出があります。
そこで今回は、私と同じような経験しないように、東海地方で見られる3種、キバナハナネコノメソウ、トウノウネコノメソウ、そしてシロバナネコノメソウの具体的な撮影スポットと見つけ方をご紹介します。
ネコノメソウの基本情報
ネコノメソウは身近に見られるものから、山奥の渓谷で咲いているものまでさまざまです。
名前の呼び方にについて
ネコノメソウは、例えばハナネコノメのように「ソウ」を抜き略して呼ぶことがありますが、ここでは紛らわしいので全て「ソウ」をつけます。
花が終わった後のタネの様子が猫の目に見えるという事からネコノメソウの名前がつきました。
種類や花が咲く時期
ネコノメソウの仲間は世界に約60種ほどあり、そのうち日本には19種類が生育しています。中でも11種類は日本固有種。代表的な種類にはネコノメソウ、ヤマネコノメソウ、ツルネコノメソウ、マルバネコノメソウ、ボタンネコノメソウ、イワボタン、ハナネコノメソウなどがあります。これらの花は、数枚の苞葉と呼ばれる葉の上に咲きます。
ネコノメソウの花に見える部分は実際にはガク片に当たり、花弁はありません。これらの部分は次第に緑色に変化していきますが、本文中では便宜上「花」と呼んでいます。
花の色は黄色から黄緑色が一般的であり、白色の花を咲かせるのはハナネコノメソウとシロバナネコノメソウのみです。
ネコノメソウの生態や自生地
河川の環境の変化により、都市部ではネコノメソウを見る機会が減少しています。しかし、人があまり入らない山や沢などの自然環境では、まだ結構確認できますが、希少な種類は県によって絶滅危惧種に指定されている場合もあります。
実際、2020年に新種が発見された例もあり、地域によってはまだ新たな種が見つかる可能性もあります。これは少し夢のある話ですね。
ネコノメソウの花が咲く時期は、群生している場所では目立ちますが、花期以外はその存在感が非常に薄く周囲のコケなどと間違われることもあります。そのため、人がよく入る山の登山道では見落とされやすく、踏まれたリして生息地が減少している場所もあります。
東海地方のネコノメソウの種類と特徴
私の地元である東海地方の一部のネコノメソウを紹介します。
稲武地区のネコノメソウ
愛知県稲武の面の木近辺では、ヤマネコノメソウ、タチネコノメソウ、キバナハナネコノメソウ、ニッコウネコノメソウ、トウノウネコノメソウ、コガネネコノメソウが観察されます。
特徴 | 花(ガク片)の色 | 葯の色 | |
ヤマネコノメソウ | ネコノメソウに似ているが葉が互生 | 黄緑色 | 黄色 |
ネコノメソウ | ヤマネコノメソウに似ているが葉が対性 | 黄緑色 | 黄色 |
ヨゴレネコノメソウ | イワボタンの変種で葉が紫色 | 緑、紫褐色 | 暗紅紫色 |
ニッコウネコノメソウ | 花同士が密接して一つの花に見える | 緑、黄緑 | 暗紅紫色 |
トウノウネコノメソウ | コガネネコノメソウに似ているがシベが花から飛び出している | 黄色、黄緑色 | 黄色 |
タチネコノメソウ | 葉が互生して花同士が少し離れている | 黄緑色 | 黄色 |
コガネネコノメソウ | 花は四角形で並んで咲くことが多い | 黄色 | 黄色 |
シロバナネコノメソウ | 白い花で葯が赤い、花の先がとがって茎の毛が多い | 白色 | 赤色 |
ハナネコノメソウ | 白い花で葯が赤い、シロバナネコノメソウと違って花の先があまりとがらず茎の毛が少ない | 白色 | 赤色 |
キバナハナネコノメソウ | ハナネコノメに似た花で黄色の花が咲く | 黄色 | 黄色、オレンジ色 |
ヤマネコノメソウ
北海道南西部から九州まで広く分布するネコノメソウの一種です。林縁部、渓谷、石垣など、比較的町の近くでも見られる身近な存在です。
3~5月の花期には、花茎と葉に長い毛を持つ花を咲かせます。花に近いほど葉が小さく黄色っぽくなるのも特徴です。
ネコノメソウ
北海道から本州、一部九州まで分布する花です。ミズネコノメソウの別名を持ち、ヤマネコノメソウとよく似ていますが、葉が対性である点が大きな違いです。
花期は4~5月で、ヤマネコノメソウとは異なり、山地の湿地、谷あい、山麓の湿った場所などに生育し、群生することが特徴です。鮮やかな黄色の花は、水辺を美しく彩ります。
ヨゴレネコノメソウ
関東以西の本州、四国、九州に分布するネコノメソウの一種です。低山の沢沿いの湿った場所に多く見られ、個性的な紫色の花を咲かせます。
花期は3~4月で、花に近い場所の葉は淡い色になり、花色は暗紅紫色から緑色まで変化します。葯は暗紅紫色で、イワボタンの変種であることが特徴です。葉は黒っぽくなることから、ヨゴレネコノメソウという名前が付けられました。
ニッコウネコノメソウ
本州、四国の太平洋側に多く分布するネコノメソウの一種です。イワボタンの変種で、山地の渓流沿いの湿った場所に咲きます。
花期は3月下旬から4月で、花に近い葉は鮮やかな黄色になります。花色は緑から黄色と変化し、ヨゴレネコノメソウと似ていますが、花色が少しだけ異なるのが特徴です。
トウノウネコノメソウ
本州の中部地方、岐阜県南東部と愛知県北部にのみ分布する希少なネコノメソウです。1999年に初めて発見され、その後、愛知県と岐阜県、さらに京都府で変種が見つかりました。
花期は3~4月で、コガネネコノメソウに似ていますが、シベが花から飛び出しているという特徴があります。鮮やかな黄色の花は、春の訪れを告げる妖精のように可憐です。
タチネコノメソウ
本州の関東地方以西、四国、九州に分布するネコノメソウの一種です。山あいの林内や林縁の沢沿いの水湿地に生育し、緑色の花を咲かせます。似た種類につるネコノメソウがあります。
花期は4~5月で、花を囲む葉は卵円形、花は緑色で平開するのが特徴。根出葉には長い葉柄があり、他のネコノメソウとは一味違った趣を持っています。
コガネネコノメソウ
関西以西、四国、九州に分布するネコノメソウの一種。山地の沢沿いの湿地に生育し、輝くような黄色の花を咲かせます。黄色のネコノメソウを見つけるとこの種類が多いです。
花期は3~5月で、他のネコノメソウに比べて花が大きく、花茎が立ち上がって数個の花が四角形に並んで咲くことが多いのが特徴です。その姿は、まるで黄金のじゅうたんを敷き詰めたかのようです。
シロバナネコノメソウ
本州の近畿地方・中国地方、四国、九州に分布するネコノメソウの一種です。樹林下の谷沿いの湿った場所に生育し、純白の花を咲かせます。
花期は4~5月で、花以外の茎や葉に白色の毛が目立つのが特徴です。花弁に見えるガク片は先端がとがっており、ハナネコノメソウとの違いを見分けるポイントです。また、赤色の葯がとても目立ち、花粉は白色です。
シロバナネコノメソウの変種として、ハナネコノメソウやキバナハナネコノメソウなどが存在します。
ハナネコノメソウ
福島県から京都府にかけて分布するネコノメソウの一種です。谷沿いの林内の湿地に生育し、白色の花を咲かせます。
花期は4~5月で、シロバナネコノメソウとよく似ていますが、花弁に見えるガク片の先端が丸いのが特徴です。シロバナネコノメソウは茎に毛が多く、一方のハナネコノメソウにはほとんど毛がありません。また、葯が取れた後の花粉が白いのがシロバナネコノメソウで、黄色いのがハナネコノメソウです。
キバナハナネコノメソウ
静岡県、山梨県、愛知県、岐阜県、長野県など東海地方にのみ分布するネコノメソウの一種です。ハナネコノメソウに酷似していますが、花色が黄色である点が特徴です。
花期は4~5月で、渓流沿いの岩などに貼り付いて咲いていることが多く、沢登りなどで見られることがあります。
愛知、三重の撮影スポット
自生地の場所などの詳細を紹介します。
キバナハナネコノメソウの撮影スポット
面の木の第一駐車場の近く、標高1000mほどの地域で見ることができます。アクセス方法として、国道153号線を豊田から長野方面に向かって進み、途中の道の駅どんぐりの湯を過ぎた後、国道257号線を右折し、大井平公園を通り過ぎて左折し、県道80号線を面の木方面に向かって進みます。稲武野外活動センターをこえると、かなり道が狭くなり、急な登り勾配になるので、安全のためにゆっくり走行しましょう。
面の木第一駐車場に車を停めて、県道80号線を稲武方面へ向かって約20分ほど歩いた道路沿いの沢に入ります。入り口付近には他のネコノメソウが多く見られますが、キバナハナネコノメソウは突き当たりの小さな滝の周辺で岩に貼り付くように咲いています。
もう1つのスポットは、稲武の川手地区で、国道257号線を稲武から押川大滝へ向かう道の名倉川沿いの沢でみられます。こちらは、場所も分かりやすく川手メロディートンネルをこえて2キロ弱走ると左手に20台ほど停められる駐車場があります、そこから沢を200mほど進んでいくと沢沿いにたくさんの花が見られます。
トウノウネコノメソウの撮影スポット
面の木の第一駐車場から県道を稲武方面に戻る途中に、川沿いに降りられる遊歩道があります。稲武野外学習センターまで、何カ所か沢が合流する場所がありますので、沢沿いを探すと、さまざまなネコノメソウが見られ、その中にトウノウネコノメソウも含まれます。
トウノウネコノメソウが見られる場所でキバナハナネコノメソウも見られますが、駐車場から30~40分ほど歩かなければいけない上に帰りはすべて登り坂になるので体力が必要です。終点まで往復すると2時間弱かかるため、時間がある時にゆっくりと散策しながら観察してみてください。
シロバナネコノメソウの撮影スポット
シロバナネコノメソウを見るために、新名阪自動車道の鈴鹿SAのスマートインターチェンジを出て県道11号線に向かい、椿大神社を目指します。ネット情報によれば、椿大社から入道が岳の登山道井戸谷コースを抜けて沢沿いの滝まで行くと見られるようですが、山登りが難しい方や目的がハイキングではない方には少々無理があるかもしれません。フクジュソウやミノコバイモなども見たい方は、こちらがオススメです。
体力がない私は、長い登山道は苦手です、そこで、椿大神社へ行かずに県道11号線をそのまま通過し、小岐須渓谷キャンプ場を目指します。小岐須渓谷山の家の駐車場に車を止めて、トイレ横の滝が谷コースの登り口の階段を進みます。
約5~6分歩くと左に椿岩取りつきの看板がありさらに1~2分歩くと歩くと左手に水量の少ない沢が現れます。その沢沿いを探索すると、数は多くはありませんが、シロバナネコノメソウを見ることができるでしょう。
今年(2024年)の動画ですが、群生して咲く場所は大雨などで沢自体が変わってしまうこともあるので毎年同じ場所ではありません周りを良くさがしてみるとまとまって咲いている場所が見つけられます。山の斜面なども見てみましょう。
場所で変わる花期
その年の気温によっても変わりますが、花が咲く順番はトウノウネコノメソウやヤマネコノメソウが早く2月くらいから咲き始めその後シロバナネコノメソウ、キバナハナネコノメソウと続きます。
標高の違いで開花時期が変わりますが、陽の当たり具合や湿り気などで違いもあります、同じ場所でも開花まで2~3週間違う場合もあります。
2024年の開花状況
2023年から24年にかけて暖冬傾向でしたが、寒気が入ったこともあってかなり開花が遅れている場所も有ります。3月下旬と4月に自生地に行ってきましたので、開花状況を報告します。
シロバナネコノメソウの開花状況
シロバナネコノメソウが咲く小岐須渓谷は3月30日に訪れた時、日当たりの良い場所の花はほぼ全開していましたが、少し日陰の場所では、まだツボミも多く花も小さめでした。
ただ2月に登山された方の報告では、滝の近くなど水が常に当たっている場所で開花していたようなので気温よりも水と日当たりに影響を受けることが多いようです。今のツボミが咲くのはもっと後になるので、2月~4月くらいまでがこの辺りでみられる期間です。
キバナハナネコノメの開花状況
4月2日に2カ所撮影に行きました。
稲武の面の木では今年は花数も少なく去年見られていた場所でも全く花がなかった所もありました。標高が高いせいもあってか、まだ花もあまり開いておらずツボミもそうとう小ぶりでした。ただツボミからは赤色のシベもみえていて、2週間以内には咲きそろいそうです。4月の中旬くらいまで見頃は続きそうだとおもわれます。
稲武の川手地区では、花が満開状態でほぼきれいに咲きそろって見ごろを迎えていました。ここの花は鮮やかなオレンジ色の葯が特徴で、他の場所の花よりとても目立ちます。面の木より標高が低いので開花も早く、3月中旬くらいから写真に撮れるくらい咲いていたようです。今が見頃なので気温が上がると1~2週間で終了するかもしれません。
他のネコノメソウの開花状況
コガネネコノメソウがちらほら見かけますが、トウノウネコノメソウは早めに咲いたのかあまり見ませんでした。面の木では、去年の同じ時期にくらべると全体に花が少ない感じでした。
川手地区のニッコウネコノメソウは、そろそろ終盤です。
ネコノメソウ以外の山野草
ネコノメソウを探していると、同じ時期に咲く他の山野草にも出会うことがあります。以下に、一緒に撮った花を紹介します。
トウゴクサバノオ
ネコノメソウと花期や生息場所が被ることが多い、キンポウゲ科シロカネソウ属の花です。花(萼片)はクリーム色で非常に小さく(6~8mm)、ツボミの状態では見つけるのが難しいことがあります。陽が当たって気温が上がると開花します。花弁が退化したような黄色の蜜線が特徴で、美しい花です。同じシロカネソウの仲間には、5月頃に稲武地区で見られるミノシロカネソウもあります。
川手地区ではキバナハナネコノメソウと混じって群落をつくって咲いています。
チャルメルソウ
この花もネコノメソウと同じく、沢沿いの湿気の多い場所に咲きます。花自体が面白い形をしていますが、果実がチャルメラに似ていることから名付けられました。ガク裂片の先端が通常3~6裂に分かれていますが、こちらでは9~11裂のミカワチャルメルソウが見られます。
ミヤマカタバミ
スミレよりも少しだけ大きめの白い花を咲かせ、中に紅色の筋が入っています。山地の林床に咲いており、ミヤマと名前がついていますが山奥まで行かなくてもわりとよく見られる花です。
タマゴケ
花ではなくコケですが、球状の胞子体がたくさん飛び出すように見られます。緑色で中が透けているように見えますが次第に赤色になっていきます。
撮影の注意点
撮影に際しては、一眼レフカメラやスマートフォンなど、手元にある機材を活用できます。ただし、マクロ撮影を行う場合は、一眼カメラが特におすすめです。ネコノメソウは花が小さく、特にシベの色合いが重要ですので、クローズアップ撮影が可能なレンズが最適です。
コンデジでも撮影は可能ですが、最新のスマートフォンのカメラ性能が向上しており、コンデジとの画質差が縮まってきています。カメラ選びにおいては、コンパクトでありながら高性能な機種を選ぶと良いでしょう。ソニーのα7CⅡやα6700などはコンパクトでありながら、レンズも交換可能でマクロ撮影にも適しています。マクロ撮影用のレンズとしてはFE50mmやFE90mmなどがあります。
ネコノメソウは地表から1~3cmの低い位置で咲くことが多いため、カメラを低い位置で構える必要があります。しかし、地面までカメラを下ろすとシベが見えなくなる場合があります。岩や地面に貼り付いて咲いている場所では、程よい高さからのアングルで撮影すると良いでしょう。光の状態で見え方も変わりますのでできれば一つの花を一周して数枚撮っておいた方が良いでしょう。
シベに葯がついた状態が一番きれいに見えます、咲き進むと葯が取れてしまうので小さくて見にくいのですが、葯の状態が良い花を選びましょう。
撮影場所は沢のまわりなどが多いため、三脚を使用することが難しいです。また、ネコノメソウは日の光が少ない影の中でもよく咲くため、絞りを開いてシャッタースピードを速めに設定し、ブレを防ぐことが重要です。必要に応じてISO感度を調整して撮影すると良いでしょう。
また、ネコノメソウは環境が変わるとその場所で咲かなくなることがあるため、慎重に行動し、他のネコノメソウを踏まないように注意しましょう。
また岩などがぬれていると非常に滑りやすく転倒などの危険もあります。足元は撮影ポイントが水に入らなければ行けない場合が有るので、登山用の防水トレッキングシューズを着用することをおすすめします。
余談になりますが、今年の撮影で枝に乗って写真を撮っていたら折れてしまって、片脚水没して、その後の撮影はぬれたままおこないました。
まとめ
この記事では、東海地方で見られるネコノメソウについて、撮影場所や撮影の注意事項を紹介しました。
近年、希少なネコノメソウの盗掘が増加しており、自生地が減少しています。この時代に私たちが自然を守らなければ、将来的にはネコノメソウが見られなくなってしまうかもしれません。写真家や愛好家が自生地の情報を詳細に共有しないのも理解できます。
実際、市場での販売価格を見ても、盗掘するための労力に見合った価格ではなく、かなり低価格で売られています。山野草は山野に咲いて初めてその美しさを発揮します。鉢やコレクションを見ても自然のものにはかないません。
今回の情報は、数年通った自分の撮影スポットで自分と同じように撮影したいけれど場所が分からないという方のために共有します、くれぐれも悪用されないことを願っています。
「山野草は、採らずに撮りましょう」
こんな看板をどこかで見かけました。