行き当たりばったりでは撮れないカタクリの花
スプリングエフェメラル(春に花をつけ、夏まで葉が見られあとは地下で過ごす一連の草花の総称、儚く消えていく様が妖精を思わせるそうです)と呼ばれるカタクリの花をきれいに写真に撮ってみたい。
そう思って出かけた方の中に、花が開いていなかった、蕾だと思ってあきらめて帰ったら午後から開いていた。とそんな思いをした方がいるようです。
カタクリの花は、どこにでもある物じゃないので咲く場所や花の特性を考えないと行き当たりばったりではなかなか撮れない花なのです。
「これを知らないと撮れない」という、カタクリの花の秘密を書いていきましょう。
花を撮るには花を知る、これは花撮りに限らず写真の基本になります。
カタクリの生態
カタクリの花は、寒い地方に咲くことが多いのですが5月にタネを落とし1年目に芽を出します。そこから、7年目まで毎年1枚だけ葉を出して鱗茎に養分を蓄えていきます。
8〜10年目に葉っぱが2枚出ると花をつけ、寿命は長く40〜50年にもなるそうです。
昔は片栗粉の原料と言われていましたが、希少な植物なので今はジャガイモからとれたデンプンが原料になっているようです。
花の開く時期
春一番桜の花が咲き始める少し前に咲くカタクリの花は、3月から遅い地方で5月くらいまで咲きます。
春の妖精と呼ばれるスプリングエフェメラルの一種。
花の咲く時間
カタクリは結構気難しい花で、晴れた日の午後にシッカリと花を開かせます。
雨や曇りの日、早朝から10時ころまでは蕾の状態で、それを見てまだ時期が早いと帰ってしまう方もみえるのですよね。
夕方にはまたとじてしまうので午後から3時間くらいが一番開いた時間帯となります。
気温によって開き始める時間が変わりますが、暖かい日は午前の10時前から開き始めることもあります。
花が開く気温
気温が16℃を超えると開花が始まると言われていますが、カタクリの花は毎日開閉しますので、初めて開花する花より何度か開いている花が開きやすい傾向にあります。
ピーク時の最終になると開きっぱなしの花も多くなりますが、花の痛みは多くなるようです。
生態がある程度分からないと、この花は撮る事が難しい花になりますのでここで書いてあることをよく覚えてから撮影の項目に行ってくださいね。
カタクリ撮影のポイント15点
カタクリは変身する花
開花が始まるとカタクリの花は、短い時間で花弁がどんどん開いていきます。
それぞれの状態で、全く違った花にも見えますので、好みの開き具合を見つけてください。
蕾状態
とんがった蕾はまだ開いたことがなく、先端が開いているものは何度か開閉を繰り返した蕾。
平開状態
全開になる途中です。この状態の時は動きも早く、気温が高いと目で見えるくらい動きがあります。
この状態が好きという方は、かなり短い時間で勝負ですね。
全開状態
花が真っ直ぐ後ろの方まで伸び桜模様の蜜線が少し見え始めます。早いものはこの状態で花弁が反ってくる場合も。
気温が低い日は、ここまでしか開かない事も多いようですね。
この状態を好まれる方も多く、一番撮られている姿になります。
反り返り状態
全開から更に進んでこれがカタクリの最終形、完全に反り返ってタマネギ状態ですね。シベを突き出す格好で虫を誘い、蜜線がクッキリと見えるようになるのでここを狙ってみましょう、
ローポジションから撮る
山の斜面に咲いている場合は、かなり下の方から撮る事ができます。
なぜ下からがよいのかと申しますと、カタクリの花芯は下からしか見えない位置に桜模様の蜜線が見えます。カタクリの代名詞のような模様なのですが、かなり下からのアングルじゃ無いと撮れないのです。
斜面を利用すると平らな所でカメラを地面に置いたときより更に下から狙うことができますよ。
花が反り返り状態になると、それ程ローポジションじゃなくても蜜線が撮れるようになります。
平らな場所の場合は、レジャーマットなどをひいてカメラを地面スレスレに置いて撮ります、三脚のエレベーターポールに逆さまにカメラを取り付けて撮るという裏技も有りますよ。
青空もバックにできますので、花弁が透けた感じや花の色を強調して撮れます。
望遠レンズで撮る
群生地では、撮りたい花を見つけても近くに寄れない場合が多いので望遠レンズで狙ってみましょう。
望遠レンズならではの圧縮効果も出てちょっと不思議な画作りができます。
望遠レンズならではのボケで面白い表現ができます。どちらも望遠300㎜で撮影。
透過光で撮る
花の色をきれいに出すには、透過光が効果的です。白飛びしないように少しアンダーで撮っていますが、シベの辺りに少し補助光が欲しい気もします。
午後からの撮影の場合、半分逆光気味の透過光になります。コントラストが強くなるので白飛びや黒つぶれに注意が必要。
曇天で撮る
曇天は、花の色がきれいに撮れますが、気温次第で花が全開しないので花姿のバリエーションは期待できません。コントラストも弱めになるのでレタッチで調整も考えましょう。
シロバナの撮り方
群生している場所では、白い花も見つけることができます。自然の中ではかなり出会う確率も低いのですが、私が撮りに行く香嵐渓は、15分ほど探すと1本あるというくらい数多くみられます。
シロバナは周りに露出を合わせるとかなりの確率で白飛びしてしまいますのでマイナス補正することが必要。
ハイキーの表現
ポジション取り次第でどうしても明るくなりすぎる場合、あえてハイキーの表現にするのも一つの手段です。ディテールまで白く飛ばしてしまわないように注意。
花を選んで撮る
自生地へ行くとかなりの数の花が見られますので、適当に撮っていると痛んだ花が多く写って没写真が増えることがあります。
特にピークを過ぎてくるとたくさん咲いているように見えても終わりかけの花がほとんどという場合が多いものです。
咲きたてと古くなった花の違いを見分けるのは、花弁を見ると何度も開閉を繰り返した花は茶色くシミのようなものが目立ってきます。雄しべも最初は葯(先端の黒い花粉が入ったカプセル)が濃い紫色ですが、古くなると葯が開いて花粉が出て表面も白っぽくなります。
アップで撮った場合は特に目立ちますので、咲きたての花を選んで撮りましょう。
構図を考えて撮る
一つの花をど真ん中にポツンと配置しても周りに何もなかったら寂しい感じになりますね。
花の向きを見ると右、左があるので、人の目線のように向いた方角の先に何か配置をしたり、そこにボケを持ってきたりという工夫が必要です。
群生をそのまま撮ってもハッキリとした主張が無いとただ漠然としたものになるので、斜面を利用して変化をつける。背景に木を入れると山の雰囲気も出てきます。
背景や前景をボカして撮る
葉っぱが緑色なので利用して色だけのボケにしても対比がきれいに出ます。
特徴ある花の形を前ボケに使うのも面白いでしょう。
マクロレンズを使って寄って撮る
桜模様の蜜線を狙う時には、マクロレンズでシッカリ寄って撮りたいですね。この場合は密線にピントを合わせシベはちょっとボケても大丈夫です。
群生している場所はピークが近づくと手が届くくらいの所で花が見られますのでレンズ交換もいそがしくなります。
光の使い方を考える
花の場所は山の中が多く光の使い方が難しくなります、逆光の黒つぶれ、順光の白飛びには注意が必要ですが、時間帯を考えるとそれほど光の状態を選んでは撮れませんので、露出補正やストロボ、簡易のレフ板の使用なども効果的です。
雨降り明けはチャンス
雨降りは開かないカタクリの花でも雨が降った後に晴れると、めったにない水滴がついた花弁が撮れます。朝まで降っていた雨が上がって晴れの予報が出たらチャンスですね。
雨粒が葉っぱに反射してレフ板の効果で花を補助光無しで明るく撮れたり玉ボケも目立って撮れる場合があります。
花の向きに気をつけて撮る
群生しているところでは光の加減なのかほとんどの花が同じ方向を向いています。
撮る向きによっては後ろ姿ばかりになる場合もありますのでご注意。
スポットライトを狙ってみる
山の木の間から入ってくる光は、スポットライトになる場合があります。露出オーバーにならないように注意しましょう。
愛知、岐阜のカタクリ群生地
香嵐渓
飯盛山の北西向き斜面の約0.5haに群生地があり、ピーク時には山が染まって見えます。ニリンソウやキクザキイチゲなど他のスプリングエフェメラルも見られます。ピーク時は駐車場も混みあってきます。
1周30~40分ほどの山中の遊歩道は真下からも花を撮ることができ場所によって光も選べるので撮影には良い条件がそろっていつも2~3周しています。
可児川下流域自然公園カタクリ群生地
鳩吹山の北斜面に10万株の群生。香嵐渓より少し大きめの花が多いようです。
香嵐渓のような周回路がなく平地も多いので、少し離れた花を望遠レンズで狙ってみたいところです。
以前は登山道の入り口しかなかったのですが、最近道の駅やスーパー銭湯が近くにできて見に来る人も増えてきています。
シーズン中に2回は撮ってみたい花
たくさん注意を書きましたけれど、カタクリの花は晴れた日の午後に開きますが半分開いた姿や色々な光の条件で撮ってみたいので午前10時から午後2時ころを目安に出かけるのがおススメです。
できるならば、咲き始めの時期とピーク時に両方行って撮ってみたいですね。
2024年開花状況(香嵐渓)
写真は2024年3月15日正午。
今年は2月の暖かい日に開花が始まったので、3月15日現在、開花にばらつきがあり例年より花数が少なく見えます。
小さな蕾もありました。18日から気温が低めで続きそうなので24日(日)くらいまでもちそうな感じもします。
まとめ
妖精と呼ばれる花は何種類もありますが、カタクリは正に春の妖精という言葉にピッタリの花。
他の花には無い魅力があり、そのためにこの花に合った撮影をしないとそれを出すのが難しいですね。
撮影前にもう一度この記事を読み返していくことをおススメします。
私はもう10年以上シーズンになると通って撮っていますが、10年前のタネが今花を咲かせていると思うと感慨深いものがありますね。
どちらの群生地もイノシシなどの被害が無いように対策をとっているようです。花が咲くまでに7年以上かかるのですから掘り返されては大変。
1度会ったらまた次の年も会いたくなる、そんな春の妖精を撮りに行ってみませんか。
四季の花撮影はこちら↓