今は生産も終了しているタムロンSP90mmマクロレンズ。タム9の愛称で呼ばれるこのレンズは、どんな写真が撮れるのか、また中古の価格はどれくらいなのかなど調べてみました。
伝説と言われるレンズの魅力
写真の魅力は、現実を忠実に写し取ることも大切ですが、同時に、現実とは異なる世界を垣間見ることも魅力のひとつです。
一定距離から撮影した写真は迫力がありますが、さらに近づいて捉えたイメージや、微細なディテールを切り取った画像にはどのような魅力があるでしょうか?
写真を撮る際に、水滴の中の花などを撮影しようとすると、細部までクッキリと写し出すのが難しいことがありますね。
スマートフォンや一眼カメラの標準ズームレンズでは、寄っても限界があり、拡大するとボケてしまい、満足のいく写真が得られないことがあります。
そんな悩みを解消するために、伝説のレンズであるタムロンSP90mm、通称「タム9」の魅力についてお伝えしていきたいと思います。
なぜマクロレンズを使うのか
まずマクロレンズとは、簡単に言うと小さなものを大きく写すレンズです。
望遠レンズも遠くのものを大きく写せますが、寄れる距離や写し出される対象物の大きさには大きな違いがあります。
例えば、一本の針を撮影する場合、望遠レンズでは針が大きくきれいに写りますが、マクロレンズでは針の穴が大きくきれいに写ります。これはマクロレンズの倍率などによるものですが、イメージとしてはこんな感じですね。
そして、その中でも特におすすめのマクロレンズが、タムロンSP90mmというレンズです。
タム9の魅力
コストパフォーマンスに優れている
ニコン純正の同じ焦点距離のマクロレンズ、例えば105mmマクロは、約13万円(旧製品)ですが、タムロンのSP90mm最新モデルは9万円弱(発売当初)という価格設定です。性能や機能などを比較すると、価格の差を感じさせないほど近いものがあります。
ピントの合った場所のクリアな描写
写真は日本一小さな、ハッチョウトンボを日本一大きく?撮ってみました。最短撮影距離は30㎝くらいなので、ギリギリまで寄らなくても等倍の写真が撮れます。少しトリミングしてますが、画質は落ちずクリアな写りです。
実際の大きさは50円玉で隠れるほど小さなハッチョウトンボです。
通常の標準ズームレンズでは、トンボを十分に大きく写すことが難しく、望遠レンズを使っても近づくことができません。そのため、撮影した写真をトリミングして拡大する必要がありますが、その際に画質が劣化してしまうこともあります。この大きさのトンボの複眼は、肉眼では見えませんが正確に見ることができます。
水滴写真では、肉眼では見えにくい水滴の映り込みなどもトリミングして観察できます。ただし、ピント合わせは非常に難しいため、何枚も撮影してピントが合ったものを選ぶ必要があります。
大きくやわらかなボケ
ある程度絞って撮影した写真でも、簡単にボケの演出が可能です。特にマクロレンズでは、望遠レンズよりも玉ボケなどのボケ表現が撮りやすくなっています。絞りを大きく開けることで被写界深度が浅くなり、背景がぼかされる効果が得られます。このようなボケ効果を生かして、被写体をより際立たせる写真を撮影できます。
やわらかなボケは、ピントの合った被写体を引き立てる効果があります。被写体に寄って撮影するか、絞りを開くほど、より大きくて柔らかなボケを表現できます。時には、背景が完全にぼやけて色だけが残るほど、ボケが進んでしまうこともあります。人が目にする景色には、このようなボケはありませんが、このアートな感覚もまた魅力的な要素です。
強力な手振れ補正
遅いシャッタースピードでもブレない手振れ補正は、花のシベやトンボの毛一本までをしっかりと描写してくれます。ただし、マクロ撮影では風の影響の方が手振れよりも大きいことがよくあります。
マクロレンズの注意点
最初にマクロレンズを購入して戸惑うことがあります。それは、ピントです。
マクロレンズは、被写界深度(ピントが合う範囲)が非常に浅いのでスマートフォンなどで撮り慣れている方は、まったくピントが合わないレンズという印象を持つ方が多くいます。
マクロレンズは花などいっぱいまで寄って撮った場合、かなり絞ってもパンフォーカス(すべてピントが合った状態)では撮れません。花弁の前がわ、オシベかメシベの一本、花弁の後ろがわなど撮りたい場所にしかピントが合わないようにできているレンズなのです。ウェブなどで見かけるすべてクリアなマクロ写真は、深度合成など撮影後の編集によってできています。
被写体の中の主題をより細かく明確に撮影するのがマクロ撮影なのです。
伝説からタム9の愛称へ
約40年前、初代の90㎜マクロレンズが発売されました。当時のマクロレンズは、文書などを写す際に使われていましたが、描写やボケの質は現在とは比べ物にならないほど硬く、芸術的な要素はほとんどありませんでした。
90㎜の焦点距離はポートレートなどに最適であり、近接撮影も可能で、柔らかなボケが特徴でした。このタム9として親しまれるレンズは、モデルチェンジを繰り返しながら、多くのアマチュアやプロのカメラマンに愛用されてきました。
詳しくは、タムロンの公式サイト「タムQの歴史」で、それぞれの特徴や前バージョンからの改良点なども挙げられています。
私は以前、1世代前のF004を使用していましたが、去年、新しいF017に買い替えました。F004との違いは、最大径が76.4㎜から79㎜に増え、重量が500gから600gに増加し、防塵防滴構造が簡易から完全版に変更されています。また、手振れ補正も強化されています。
オートフォーカスの速度は、正直に言うとあまり速くはありません。動きのある被写体を撮影する際には少々厳しい面もあります。
マウントアダプターを使用すれば、一部のミラーレスカメラでも使用できるようですが、AFの対応などは機種によって異なるようです。
2024年3月現在、タムロンの90㎜マクロレンズはすべて生産終了しています。在庫は通販サイトでまだ豊富に残っているようですが、修理に関しては生産終了から8年以上経過しているため、公式HPで確認することをおすすめします。
中古の価格
人気のあったレンズですので、中古もまだかなりの数が出回っています。価格も状態によって差がありますがだいたい以下の通りです。
レンズ名 | 発売日 | 価格 | 手振れ補正(あり・なし) |
Model272E | 2004年発売 | 約18,000円~ | なし |
Model F004 | 2012年発売 | 約30,000円~ | あり |
Model F017 | 2016年発売 | 約45,000円~ | あり |
272EとF017は、修理対応になっていましたが、F004は修理対象外でしたので購入のオススメはF017です。
まとめ
タムロン90mmマクロレンズ、通称「タム9」は、中望遠からマクロまで幅広い被写体に対応できる優れたレンズです。私自身も、このレンズを常用しており、カメラにほぼ付けっぱなしで使用しています。
接写だけでなく、ボケの表現も素晴らしいこのレンズは、肉眼では見えない世界をのぞいてみたいと考える方にとって最適です。クリアなピントととろけるようなボケ味を楽しめます。
さらに、このレンズにまつわる伝説。そんな魅力的な要素を探求してみませんか。
掲載写真はすべて私が撮った写真で、写真投稿サイト「フォト蔵」で、トキゾウのHNで投稿しております。