春の訪れとともに、森や里山に舞う美しいチョウ、ギフチョウ。その鮮やかなハネに春の息吹を感じる人も多いことでしょう。このブログでは、ギフチョウの生態や生息地について探求し、岐阜や愛知の撮影スポット、そして保護活動の背景に迫ります。
ギフチョウは自然環境の指標とも言われ、その姿を見ることは貴重な体験です。しかし、近年の個体数の減少や生息地の変化により、保護が求められる状況にあります。そこで、名和昆虫博物館やちごの森でのギフチョウの撮影体験を紹介、その美しさに触れます。ギフチョウを撮ってみたい方へのガイドの役が出来れば幸いです。
この記事は写真撮影がメインですので採集目的の方は、参考にはなりません。
ギフチョウとは?
毎年春の2~3カ月だけ見られるギフチョウ。春の女神と呼ばれるこのチョウについて解説をします。
春を彩る美しいチョウ
ギフチョウは、日本の本州の里山に生息する美しいチョウであり日本の固有種です。成虫は3月下旬から6月中旬にかけて発生します、ただし、近年では里山の放棄や開発などの影響で個体数が減少しています。
成虫の特徴は、前翅長が3〜3.5 cmであり、黄白色と黒の縦じま模様が特徴的です。後翅の外側には青やオレンジ色、赤色の斑紋が並び、尾状突起を持っています。オスとメスの外見にはあまり差異はなく、メスがやや大きい傾向にあります。
分布域は本州の秋田県南部の鳥海山北麓から山口県中部まで広がっており、26都府県に分布します。生息地は下草の少ない落葉広葉樹林であり、カタクリ、ショウジョウバカマ、スミレ類、サクラ類などの花を訪れて吸蜜をします。
ギフチョウの名前の由来
ギフチョウという名前は、岐阜県に由来すると言われています。
1883年(明治16年)4月24日、名和靖という人物が、岐阜県郡上郡祖師野村(現在の岐阜県下呂市金山町祖師野)で、それまで見たことがない美しいチョウを採集しましたが、当時まだ新種として知られておらず、名和靖は石川千代松という昆虫学者に同定を依頼しました。
鑑定によって、このチョウは新種であることが確認され、名和靖は岐阜県にちなんで「ギフチョウ」と名付けます。
その後、ギフチョウの幼虫の食草が分からず、懸賞金をかけて情報提供を呼びかけました。
1887年(明治20年)、当時14歳だった名和靖の息子、名和梅吉が、岐阜県谷汲村でギフチョウの幼虫の食草であるウスバサイシンを発見して20銭の懸賞金を受け取り、ギフチョウの名前の由来は、岐阜県と名和家の功績が深く結びついていることが分かります。
ギフチョウ、アゲハチョウ、ヒメギフチョウの違い
ギフチョウ | アゲハチョウ | ヒメギフチョウ | |
大きさ | 小型(5~6cm) | 大型(8~10cm) | 小型(4~5cm) |
模様 | 後翅にオレンジ色の模様 | 翅の裏にカカラフルな模様 | 後翅に黄色い斑点 |
幼虫の食草 | カンアオイの葉 | カンキツ類の葉 | ウスバサイシンの葉 |
生息地 | 本州の一部地域 | 全国 | 北海道、本州の亜高山帯 |
ギフチョウは、春のみ出現しますが、アゲハチョウやヒメギフチョウは春から秋まで長い間成虫が見られます。
大きな違いは写真のように、後翅に鮮やかなオレンジ色が見えるのがギフチョウで
黄色に見えるのがヒメギフチョウです。
ギフチョウの生態
やみくもに山を歩いてもギフチョウには出会えません。生態を知ることで、写真に収められる確率も高くなります。
ギフチョウの1年
卵から成虫までの過程。
卵から幼虫へ
ギフチョウの卵は、直径約3mmの球形で、淡緑色をしています。メスは、カンアオイの葉の裏側に1個ずつ産卵します。卵は約1週間でふ化し、幼虫が現れます。
幼虫は、最初は薄緑色で、体長は約5mmです。成長するにつれて、黒と黄色のしま模様が現れます。幼虫は集団生活を送ることが特徴で、5~10匹ほどで集まって過ごします。
集団生活を送る幼虫
ギフチョウの幼虫は集団生活を送ることで、外敵から身を守るメリットがあります。
また、集団の中で体温を上げたり、葉巻きの食害を防いだりなどの効果も考えられています。
サナギを経て成虫へ
幼虫は、約3カ月かけて成長し夏前にサナギに変わります。そのまま冬を越して翌年の春成虫に羽化します。この間何と10カ月、成虫と幼虫が見られるのは一年のうちに3カ月ほどなのです。
ギフチョウの食草と蜜源
幼虫と成虫では当然食草や吸蜜をする花が違います。両方がそろっている里山ほど個体数も多くなります。
幼虫の食草:カンアオイ
ギフチョウの幼虫は、カンアオイという植物の葉を食べます。カンアオイは、日本全国の山林などに生息する多年草で、葉は大きく、ハート型をしています。
成虫の蜜源:カタクリ、スミレなど
ギフチョウの成虫は、カタクリやスミレなどの花の蜜を吸います。ギフチョウが羽化する時期である早春はそれほど花の種類も多くなく早咲きのミツバツツジ、ナズナ、オオイヌノフグリなどわりと限られた花が多いようです。
分布と生息地
日本の固有種ですが、どこにでも見られるわけではなくその生息地は限られています。
本州にのみ生息
本州にのみ生息し、北海道や四国、九州には見られません。特に東北地方や中部地方に多く見られます。中部地方では東北などに比べるとそうとう早くに羽化が見られます。
山地や里山の雑木林を好む
ギフチョウは山地や里山の雑木林を好み、特に標高500~1000mの地域に多く見られます。このような環境は、ギフチョウの幼虫の食草であるカンアオイが豊富に生える場所です。
個体数の減少と保護活動
近年、ギフチョウの個体数は減少傾向にあります。森林伐採や農薬の使用、気候変動などがその主な原因です。ギフチョウは日本の自然環境の指標として重要であり、その減少は生態系に影響を及ぼす可能性があります。そのため、カンアオイの保護や生息地の保全、環境教育などの保護活動が重要です。一方で、ヒメギフチョウはギフチョウよりも個体数が多く、比較的安定していますが、森林伐採や開発の影響で生息地が減少する地域も出ています。このような状況を踏まえ、継続的な保護活動と環境保全の取り組みが必要です。
ギフチョウの撮影テクニック
ギフチョウの撮影に関して、時期や時間、天気などを解説します。
ギフチョウの撮影時期
羽化の時期は、前年からその年の春までの気温によって変わるようですが、だいたい3月初旬から5月下旬まで成虫が観察できます。こちら愛知県の2024年は桜の開花から満開の時期が一番良く出現していました。一説によるとツクシの発芽とギフチョウの羽化の温度が一致しているようです。
ギフチョウの撮影場所
カンアオイなど幼虫の食草がない場所では見られず、撮影はその地域の出現情報などを参照にします。
この情報によると、名古屋市では全く見ることができず、犬山市、小牧市、春日井市、日進市、瀬戸市、長久手市など尾張東部丘陵、豊田、岡崎、新城の一部地域となっています。
撮影の時間帯や天気
ギフチョウは晴れて風のない日に活発に飛び回ります、風が強い日や雨の日には枯葉の中に入り込んで人目につかないことが多いです。
山の尾根沿いの明るい場所を好み、同じ場所をグルグルと飛びながら移動しますので待っていると、一周して同じ場所に戻ってくることもあります。
夜は高い木の上で過ごし、朝早くは静止して体を温め、気温が上がると活動的になります(18~20℃)。午後になると高い場所をよく飛ぶ傾向。
雄雌で活動の違いがあるようで、雌の方が朝は長めに体を暖めてから動き出すようです。他の虫、ハエやハチなどが活発に動き出すのを目安にするのも良いでしょう。
撮影のテクニック
ここから、具体的な撮影方法について解説します。
静かに忍び寄る
わりと敏感で、カメラを構えて寄っていくとちょっとした動きで飛んでしまいます。飛んだままでとまらない個体もいますが一度とまった個体は、何度もとまることが多いので少し後を追ってみると良いでしょう。
上からの視線は結構気になるようなので姿勢を低くして近づきます。
とまっているときはハネをひろげて日光浴をしていることが多くハネを閉じた横からの写真は貴重です。
花に止まる瞬間を狙う
花がある場所でも、必ずいるとは限らないので、気長に待つことも必要です。吸蜜は短時間で、ゆっくりピント合わせをしていると飛んでしまうことが多いです。AFの早いファインダー撮影がオススメです。とまっている場合はAF-SやAF-Cで目の近辺にピントを合わせます。
飛行まで撮りたい場合は、小さいので追尾は難しくグループエリアAFなどゾーンで捉えたほうが撮りやすいです。ギフチョウに限らずチョウは「チョウ道」というものがあってある一定のコースを飛んでいることが多いようで、観察すると確かに同じような所を行ったり来たりしています。通り道にピントを合わせ(置きピン)待ち伏せするのも有効な手段です。後は連写で数多く撮るしかないでしょう。
カメラの性能次第でチョウモードのAFを備えた機種も最近は出てきています。
リアルタイム認識AFの昆虫モードでチョウを狙う↓
マクロレンズでアップで撮影
マクロレンズで撮れるほど近寄れる状況はよほど運がよくない限りないですが、夢中で吸蜜をしているときや交尾の時などはチャンスがあるかもしれません。
また、午前中で気温が上がる前は少しだけ長めにとまっている場合が有るので盛んに飛びまわる時間の前に待っていると良いでしょう。基本は望遠レンズで撮ってトリミングという流れです。
ギフチョウと触れ合える場所
写真撮影ができる場所を紹介します。採集できる場所ではありませんのでお間違いのないように。
名和昆虫博物館
名和昆虫博物館は、岐阜県岐阜市の岐阜公園内に位置し、日本最古の昆虫専門博物館です。1883年に設立され、ギフチョウの発見者である名和靖によって始まりました。展示内容は、世界各国の昆虫約12,000種や飼育展示、企画展示など多岐にわたります。また、毎年自然の羽化より早くギフチョウの姿を見ることができ、写真撮影も可能です。
アクセス:岐阜駅から徒歩約20分、岐阜公園北門から徒歩約5分
住所:〒500-8003 岐阜県岐阜市大宮町2-18
電話番号:058-265-2456
営業時間:10:00~17:00
休館日:火曜日、水曜日、木曜日(祝日の場合は開館、夏休み・春休み期間は無休)
入館料:一般(高校生以上)600円、子ども(4歳以上 – 中学生以下)400円
駐車場:あり(有料)
URL:http://www.nawakon.jp/
小牧市ちごの森
入り口まで車で行くことができます。駐車場は数台分あります。
ササユリの小道では、コバノミツバツツジが咲いていてギフチョウの吸蜜を見ることができます。
さらにドングリの小道を通り青空小屋(標高270m)へ行くと周りが開けて遠く名古屋市内まで展望ができます。
2024年4月中旬の晴天の日、青空小屋付近を通過していくギフチョウが多く5~10分で1~2頭見ることができました。特に小屋の横が通り道なのか椅子に座って眺めることができます、追いかけなければかなり近くまで向こうから寄ってきます。
後日、曇りの日に行ってみたら、1時間で1~2頭しか見られませんでした。曇りの日に飛ぶ個体は、羽化してから日数がたったものが多く若い個体はあまり飛ばないそうです。
ただ、年寄り?の個体はゆっくり飛んでとまることも多いのでスマートホンでも撮れました。ハネはかなりくたびれていますね。
この時期には、イワカガミなどの花も見られます。
春日井市弥勒山
弥勒山と大谷山の山頂付近でみられます。都市緑化植物園の近くの築水池近辺では、カンアオイの保護地区があり立ち入り禁止にしてギフチョウを保護しています。
ギフチョウの採集禁止について
自治体によって対応が違っていてかなりややこしい状態です。
現状について
国際自然保護連合(IUCN)により、レッドリストの準絶滅危惧(NT)、日本では環境省により、絶滅危惧II類(VU)の指定を受けている。先々環境の変化で絶滅の可能性がある地域もみられます。
ギフチョウは名古屋市内など都市部周辺ではほぼ絶滅しました。地方変異によりハネの模様が異なり、マニアに珍重されるため、乱獲が増えています。一部ではギフチョウ捕獲のバスツアーが行われるなど、問題が深刻です。
県や市の条例による違い
場所により広く生育が確認され絶滅の危機に瀕した種ではないという理由で保護条例を廃止する自治体もあります。
地元の方々からは、「保護活動が行われているから採集しないでください」とか「個体数が減っているから採集を控えてほしい」という声が聞かれますが、採集に来る方は、条例に違反していないかなどしっかり調査をしてきている方が多いので、規制のない地域では採集に来ている方にそのまま伝えるのは逆に反感を買う恐れがあります。
また、放チョウして増やす試みもありますが、遺伝子のかく乱や摂食能力の低下などの懸念もあります。計画的かつ慎重に行うことが重要です。
小牧市と春日井市の状況
去年のお話ですが、その日私は花の写真を撮りにちごの森へ来ていました。道中で何か撮影している年配の女性と出会い声をかけました。
何を撮っていますか?
ギフチョウを見かけたのでここで待って撮ろうと思っています。
「頑張ってくださいね」と言って花を撮りに行き2時間ほどして帰り道にまだその方がみえたので、
撮れましたか?
実は写真を撮っている目の前で網を持った人が捕獲して行ってしまって・・・・・・
その後しばらく待ってもチョウは現れず、あきらめて帰ろうと思っていたところだったということでした。
いたのが分かっていたチョウ、それが撮れない悔しさは、同じ写真を撮るものとしてよく分かります。
小牧市のちごの森は明確に禁止はされていませんが、PDFで紹介されたパンフレットには「ちごの森には貴重な動植物がたくさん棲んでいますので、採取などは絶対にしないでください….」という注意書きがあります。
またすぐ隣の春日井市では、ギフチョウは、指定希少野生動植物種となっていて採集は禁止されています。
極端な言い方をすると、同じ尾根続きの山で規制がある市とない市が隣接している場合規制のない市へ1メートルでも入っていれば採集が可能なのが現状です。後は、モラル次第ということですが、写真を撮っている人の目の前で捕獲していく人にはモラルうんぬんは通用しないでしょう。
小牧市に問い合わせたところ、注意書きでは法的な拘束力はありませんが、今後対策を考えたいということでした。
環境省のレッドリストに入っているなら売買目的の採集は全国で禁止にしてほしいですね。
まとめ
地元を中心にギフチョウの生態や撮影について述べてきましたが、最近では生息地が増えている地域もあります。しかし、全体としてギフチョウの個体数は減少しており、調査以外の売買目的の採集は絶滅の地域を広げるだけの行為です。人が里山などの環境を保護し、変えないように努めなければ、未来にギフチョウが飛ぶ姿を見ることができなくなるかもしれません。
写真撮影に関しても、相手は生き物ですので必ず会えるとは限りません、時間帯や日にちをずらして、通ってみるのも一つの手段です。また来年も春の女神に出あえることを願って。
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