春の山野草は、季節の移り変わりを感じる上で欠かせない存在です。そんな山野草をカメラで撮影し、その美しさを引き出すテクニックを紹介します。特に、セツブンソウやバイカオウレンは、繊細で美しい花を咲かせるため、撮影するのが難しいとされています。しかし、花の特性を知り適切な撮影テクニックを使うことで、その美しさを余すところなく写真に収めることができます。今回は、そんなセツブンソウとバイカオウレンの撮影に特化したテクニックをご紹介します。
春の山野草の魅力と写真撮影
山野草撮影の魅力と楽しみ方
山野草は、季節や場所によって咲く種類が変わり、自然の中で咲き誇る美しい花や葉の模様が魅力的です。
特に春一番で咲くセツブンソウやバイカオウレンは、登山者だけじゃなく多くの写真家が被写体にする花の一つになります。
山野草の撮影を通じて、自然の美しさを見つけ、その感動を写真に残すことができます。また、花や草木との触れ合いや、季節の移り変わりを感じながら撮影することで、日常から離れ、自然と一体になることができます。
四季の山野草についてはこちらを参照。
カメラ機材の選び方と準備
一般の山野草の撮影は、マクロレンズや三脚を使うことで、被写体の細かい部分までクリアに撮影することができます。ただし今回のセツブンソウやバイカオウレンに限って言えば、マクロレンズは必要になりますが三脚は使えないという条件もあります。この辺りは撮影の方で解説しますが、もちろん群生の状態を撮ったり少し離れて望遠レンズを使ったりする場合には三脚は必要となりますのでレンズや撮りたい花の状況に応じて準備をしてください。
ストロボや簡易のレフ板も光の状態で必要になってきます、実際に現場に行かなくては光が分からないので過ぎるくらいの準備はして行ってもよろしいのではないでしょうか。
また、山野草の撮影にあたっては、バッテリーやメモリーカードなどの予備品も忘れずに用意をしましょう。撮影場所によっては、電源や通信環境が不十分な場合もあるため、予備のバッテリーやメモリーカードがあると安心です。私の場合時間を変えながら一種類の花で百枚以上撮る事も普通にあります。遠くまで撮影にいってバッテリー切れやカードの容量が足りないとなるとかなり悔しい思いをしてしまいます。
セツブンソウとバイカオウレンの魅力と特徴
花を撮るにはまず花の特徴を知ることが必要です、魅力と特徴をよく覚えて撮影に生かして見ましょう。撮影の項目へ進みたい方はこちらへ
セツブンソウとバイカオウレンはどちらも早春の妖精と呼ばれる美しい花です。同じキンポウゲ科の花ですが普通の花とは違った造りに魅力があります。
キンポウゲ科の花の特徴にガクが大きく発達して花弁と間違われることがあり実際の花弁は退化して形が変わったり無くなったりしたものが多いのです。種類も非常に多く春にはセツブンソウ、バイカオウレンの他、フクジュソウ、ニリンソウ、オダマキ、クレマチス、夏にはレンゲショウマなどあげるときりがないほどです。
セツブンソウとバイカオウレンの違い
セツブンソウとバイカオウレンは、日本固有種で花が小さいこと、早春の寒い時期に咲くなど共通したところもありますが、大きな違いは生育地にあります。どちらの花も北海道や九州には自生地が無いようです。
セツブンソウは、本州(関東地方以西)の特産で、石灰岩地を好む傾向がありますので出てきた葉が石灰で白く染まっているのを見ることがあります。花期は群生地では早い所でお正月過ぎると咲きだし丁度節分の頃に見頃を迎え、また雪の多い所では3月下旬に咲くところもあるようです。
バイカオウレンは本州の福島県以南と四国に分布、自生地では山林の湿った落ち葉があるような場所で、乾燥には弱いようです。セリバオウレンなどと同じような場所に咲いていますが、花の形はかなり変わっているようです。開花の時期は2~3月となっていますが、雪の多い場所などはもう少し遅くなります。
セツブンソウの外観と特徴
セツブンソウ(節分草)は草丈5㎝ほどの球根植物。2月~3月頃に藤色がかった白色の小さな花を咲かせます。セツブンソウの花は、花弁に見える白っぽい少ししわのあるガク5枚(中には6枚やそれ以上も有ります)大きさは2cmほど、花の中に「さすまた」のような形をした黄色の花弁の名残りがありその内側に紫色の葯がついた雄しべさらに内側にピンクっぽい色の雌しべが数本見え複雑にみえますがカラフルで人目をひく構造をしています。蕾はさらに小さく群生地では注意して歩かないと踏んでしまいます。
バイカオウレンの外観と特徴
バイカオウレンは、花が梅の花に似ていることからバイカ(梅花)、根が黄色いのでオウレン(黄連)だとされています。花はセツブンソウと一緒で花びらに見える白色のガク(直径1.5㎝)があって花の中心は緑(紫)の雌しべを囲むように白の雄しべがあり、その周りにスプーンのような黄色い花びらがありますがこのスプーンのような形や本数の違いでバイカオウレンの種類が特定できるそうです。日本ではバイカオウレン、ヒュウガオウレン、シコクバイカオウレンがあって雌しべなどもそれぞれ違った特徴を持っています。セツブンソウのように群生もするのですが株で咲いていることが多く、一つの株に多くの花をつけます。
このようにセツブンソウとバイカオウレンには外観や自生地の違いも見られるのですね。
セツブンソウの撮影ポイント
自然な光の使い方
どんな花の撮影でも共通して言えるのは光の使い方が大切という所です。自生地での撮影が主になるので場所によって光の角度などを選べないという条件も出て来ます。そこで自然の光を上手に使うというのがポイントになり思ったような光が入らない場合は、時間帯を変えるなどの工夫が必要になってきます。
日光や影の影響
光の当たり具合で花の質感もかなり変わって見えてきます。白い花は曇り空の方が質感も出しやすいのですがコントラストが弱くなるというデメリットもあります。陽が高くなりすぎると花は白飛びしやすく立体感が出にくかったり花にしべの影が入ったりしますので、レフ板などを使って透過光で撮るとかながきれいにみえます。ただし花の咲く場所にもよりますが、かなり低い位置(地面から3~4㎝)に咲いていることが多く思ったようなライティングにならないことも多いですね。晴れや曇りの情報は前もって取得できますので参考にしましょう。
朝や夕方の光
咲き始めの頃はあまり朝はやく行ってもツボミが開いていないことがあります。朝に撮影に行きたい時は、ある程度咲きそろってからの方が早めに開いている花が多くなります。日中と違って斜光線が入って来るので立体感のある写真が期待できるでしょう。太陽が低い位置の場合は背の低い花でも割と透過光で撮りやすいので透けた花の質感が楽しめます。
夕方の光で少し赤っぽく染まった花も非日常のおもしろさがあります。
背景の使い方
私が知っている自生地は、畑の中と瓦礫だらけの斜面ですが、どちらもあまりきれいな背景には使えないのでできるだけ背景はボカして色だけ使うようにしています。あまり煩雑なものを入れると花よりそちらに目が行ってしまうので群生している以外は、かなり寄った状態のマクロ撮影がメインになります。
花を大きく包むような葉っぱをバックにするとダイナミックな表現もできます。
ボケの使い方と被写体の際立たせ方
マクロレンズ使用の場合ある程度寄るといくら絞りを絞ってもピントの合う範囲(被写界深度)はかなり狭くなり花の雄しべや雌しべの先端にあわせるか花芯にあわせるのかで、まったく表現が変わってしまいます。どちらがよいのか迷う場合は両方撮っておくことをおススメします。背景は緑がある場所などを使うと花も映えるでしょう、無い場合は出来るだけ色のみのボケになるよう絞りを開いて撮るという手段もあります。
構図やアングルの工夫
割と下向きに咲く花が多く自由にアングルがとれないというのが本音ですが、自生地では山の斜面に咲いていることもあるので下から花芯を狙う事もできます。葉が花のすぐ後ろにあって形も面白いので横からのアングルもおススメ出来ます。群生を撮るにはかなり寄った状態で広角レンズなどを使うとポイントも絞ることができます。
セツブンソウもバイカオウレンもかなり地面に近い位置で花を咲かせますので、三脚を使うというより地面にカメラを置いて撮る状態が多くなります。
ファインダーやモニターを見るのも苦労しますので、チルト、バリアングルの液晶が有ると助かりますね。無い場合の裏技になりますがカメラの下側に鏡などを置いて見るとカメラを動かさなくて見ることができます、ただし上下反対になることは覚えておいてください。
レジャーシートを持ってきて完全に地面にはうような格好で撮っている方も多くみられますが、混み合っているときはさすがに遠慮したいですね。
バイカオウレンの撮影ポイント
明るさの調整方法
山地の森林内で湿った場所に咲くことが多い花です。場所によって高い木に日光を遮られることがありますので群生している場所では、花を選ぶというより光を主で考えましょう。
光が当たるとコントラストも強くなり真っ白い花の質感を出すのが難しくなります。あえて日影を選ぶという選択肢もありますが、コントラスト、彩度ともに下がった状態になるので撮影後のレタッチや現像で調整します。
撮影時の露出調整とWB設定
撮影時の露出は、私の場合ほとんどマイナスの補正をして撮っています、森の中で割と周りが暗めになりますのでマイナスの補正をすると暗くなりそうですが、メインで撮るのは花なので、花が白飛びしないようにします。WBの設定はオートでRAW現像をするので触らないのですが、Jpeg でそのまま撮られる方は晴れの状態でも曇り空くらいのセッティングの方が実際の色に近い感じがします。
彩度の調整と色の表現方法
白色の花を真っ白に撮るというのは、非常に難しいものです、彩度を上げすぎるとせっかくの白い花に他の色が被る場合も有ります。緑の葉が特徴の花ですのでそれほど彩度をあげなくても雰囲気よく仕上がると思います、逆に和の装いで撮りたい場合は、わざと彩度をおとして撮る方法もあります。
マクロ撮影のコツ
セツブンソウもバイカオウレンも私の場合は、ほとんどマクロでの撮影を行っています。バイカオウレンの場合はセツブンソウと違って花(ガク)が少し肉厚の感じですので透過光を使って撮るという訳にはいきませんので、ここは雄しべの面白さを出したいところです。咲き進んだバイカオウレンの雄しべはシッカリ開いてきますが咲き始めは雌しべに寄り添うように葯も開かずとても初々しさを感じられます。
バイカオウレンはセツブンソウと違ってツボミの状態でも良い被写体になります、淡い赤い筋が入った卵のような愛嬌のある形が特徴です。ただし、ツボミは最初のころは葉の下に隠れていて咲く寸前に葉の上に出てくることが多いものです。
マクロレンズやエクステンションチューブの使い方
マクロレンズが無い場合でもエクステンションチューブやクローズアップレンズなどを使って普通のレンズでも近づいて撮る事が可能、またマクロレンズにつけることで更に寄ることもできます。
まず撮ってみたい部分が花の退化したという黄色の蜜線のようなものです。コップ状になっていてその形状や深さで種類が特定できるようです。小さな花ですので等倍まで寄ってもトリミングしなければこの黄色の部分は大きくは見えませんが、エクステンションチューブやクローズアップレンズで大きく撮る事ができます。
ただし、寄れば寄るほど被写界深度が浅くなりピント合わせも難しくなります、ほんの少しずれてもピンボケにみえてしまいます。
雨あがりの水滴がついた状態を撮ると宝石をまとったようなとてもきれいな花が撮れます。花よりも水滴をメインにピント合わせをします。
被写体との距離やピントの合わせ方
花に限らず特にマクロの撮影では、ピントを何処にあわせるのかというのが問題になります。すべてにピントが合ったパンフォーカスと言うのはマクロ撮影ではありえないことなので、まず主題を決めて一点にピントを合わせるという撮り方を癖にしましょう。雄しべ一本、雌しべの一本、何枚目の花弁など自分が撮りたいものまたはひかれるものを探してピントを合わせます。
等倍まで寄りたい時には先にピントを最短距離にあわせておいて、カメラを微妙に前後させて撮るという方法もあります。三脚が有ると固定できますが、私がセツブンソウやバイカオウレンを撮る時はほぼカメラが地面の位置なので三脚が使えない場合が多いと感じました。
AFを使う場合も等倍に拡大してさらに手動で微調整をします。手持ちの場合はストラップなどを首にかけてピンと張った状態にしてブレやピンボケを防ぎます。
牧野富太郎博士とバイカオウレン
四国の佐川町出身の植物学者、牧野富太郎博士が好んだバイカオウレンの花。朝ドラでも有名になった花の一つですね。ドラマの中でセツブンソウをバイカオウレンと間違えたというエピソードがあり、偶然この2つの花の記事を書いていたので、驚いていました。
博士が生涯で収集した植物標本は、約40万点、描いた植物図は約1700点、名付けた植物1500種にものぼります。そんな博士の原点が子供の頃裏山である金峰神社の辺り一面に咲いていたバイカオウレンの花だったようです。今でも博士の生家裏にある牧野公園では、時期になると多くの人がバイカオウレンの花を見に訪れていると言われます。
まとめ
春の山野草撮影の楽しみ方
春先はミスミソウ、フクジュソウ、カタクリなど他にもたくさん花が咲きますが、セツブンソウ、バイカオウレンも同じく春が過ぎるととけるように消えてゆくスプリングエフェメラル(春の妖精)と呼ばれる山野草です。
冬の間見られなかった枯れ葉だけのフィールドに咲く花は春を加速させる感じがします。
セツブンソウ、バイカオウレンを近くで見られるという方もおられるでしょうが、私の場合セツブンソウは車で高速を1時間ほど走った所、バイカオウレンは更に30分ほどプラスという手軽には見られないという場所にあるのですが、その分毎年情報収集して天気予報を見ながら計画を立てて撮影に臨んでいます。
四季の花撮影はこちら↓
撮影のポイントを押さえて、より美しい山野草写真を撮ろう!
自生地は立ち入り禁止の場所も多く、自由にアングルなども撮れない所がありますが、自分なりの撮影ポイントというものは数年通うと出来てきます。もちろん光の状態や花の咲き方で変わることがありますが、「この時間帯にはこちらから光が入ってくる」など変わらない条件がある場所はメモなど残しておくと次の年行くときに参考になります。
撮影後の写真の活用方法や加工の仕方
私は写真全てRAWで保存して現像処理をしますが、白色の花は特に自然の色を出すのが難しいですね、だいたい青空が被ってきますので、青色の彩度を落として現像しています。露出もJpegでそのままよりは幅が広く補正できますのでファイルサイズは大きくなりますがHDD(SSD)にすべて保存しています。
撮った後の花の写真は、フォトブックなどを作成しても楽しめますよ。